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「兄ちゃん、飯は!」
「今、支度中だ。その前に風呂だ、さっさと入って来い」 「でも腹減ったよ~」 彦星は頬を膨らませ、腹の音を盛大に立てて抗議の声を上げるが、太朗は聞き入れない。 「いいから入って来い。そんな汚れた格好のまま部屋まで行かれたら敵わん」 「けち~」 「けちで結構」 ばっさりと切り捨てられ、彦星は肩を落とす。その様子に太朗は微苦笑を浮かべる。 「ほら、さっさと行く。夕食はお前のご所望の品だ」 「この匂いは……もしかして、牛丼!?」 腹を空かし、鋭敏さを増した嗅覚がその匂いの正体を瞬時に嗅ぎ取る。 「そうだ」 「マジで!? ひゃっほぅっ!!」 先の落ち込みぶりは何処へやら、彦星は歓声を上げるや玄関先で土に塗れた衣服を放り出し、一瞬にして全裸になると一目散に風呂場へと強襲をかける。 「しっかり浸からないと駄目だぞ」 「分かってるって!」 勢い良く閉まるドアの音に太朗は小さく息を吐くと、屈みながら散らかった洗濯物を拾っていく。その姿は何処から見ても、完璧な母親にしか見えない。 「また、彦星は玄関で脱いだのですね……」 「織姫」 振り返ると、そこには一人の少女の姿があった。 大和撫子を髣髴させる艶やかな黒髪は肩先まで伸ばされ、ゴムの髪留めで一房に結う。そんな黒髪とは裏腹に、顔の彫りは深く純血の日本人には見えず、それを証明するかのように少女の瞳は蒼穹を髣髴させる空色である。 髪の色以外、身体的特徴が全くといっていいほど見当たらない二人だが、太朗と織姫は暦とした血の繋がった兄妹である。 そして、今日。 君はいつも通り、家の前で待っていた。 なぜか、少し目が赤く腫れていた。 しかし、大して気にも留めず、いつものように学校を目指す。 そして、昼休み。 君は初めて、屋上には現れなかった。 放課後…雨が降り出していた。 PR |
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